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栄養学が進んだきっかけは感染症【特別な事情を持つ脂質】

ドッグフードとスパニエル

目次

実は密接!感染症と栄養学

ボルトン修道院

12世紀のイギリスでは、15回も飢饉とペストの流行を繰り返していました。

単純計算で6~7年に一回のサイクルで、飢饉⇒ペスト流行だったわけです。
日本でも平安時代から江戸時代の記録を見ても、飢饉と感染症の流行は、ほぼ連続して起きています。

これは偶然ではなく、
・飢饉=低栄養
 ↓ ↓ ↓
・免疫力の低下
 ↓ ↓ ↓
・感染症の流行
という流れで発生しており、低栄養と免疫力の関連が研究されるきっかけになりました。


それが原点となっているせいか、どうしても
『○○の不足の弊害』
が強調される傾向があります。



そりゃそうです。

過去を遡っても、ヒト(ホモサピエンス)の登場以来、ほとんど期間を栄養不足で過ごしてきたのですから。

低栄養で免疫力が低下⇒感染症の流行

カラトリー

そういう訳でまず『足りないもの』のせいで、免疫力が下がる研究が先行したのは当然のことでしょう。


顕微鏡の登場で、感染症の正体となる病原体が目に見えるようになったのは1600年代後半。
それまで感染症や食中毒の原因は『未知のもの』でした。


でもどんなに感染症が流行しても、
・かかる人
・かからない人
・かかっても軽く済む人
がいたことに気づいた当時の医療者の中に、食事との関連性に注目する人が現れたわけです。


最初の頃は、ビタミンやミネラルといったものの存在はまだ知られていなかったので、まず注目された一つが『脂質』でした。

脂質の不足で起こること

水の中の油

目に見えることとしては、お肌カサカサ、髪パサパサといったことですね。

しかし多くの生物の細胞膜形成には、脂質が不可欠です。


先に挙げたお肌カサカサは皮膚細胞の、髪や被毛なら皮下にある細胞群が活発に活動することで維持されています。
(もちろん血液に乗って運ばれてくるアミノ酸や他の栄養素も重要ですが、今回は脂質がテーマなのでそちらを中心に進めます。ご了承下さい)


もちろん全身の臓器の細胞や粘膜細胞、そして神経細胞の原料としても脂質は非常に重要です。
神経細胞の親分?!、脳は乾燥重量の約60%が脂質です。


そのため脂質の不足は、単に免疫力の低下だけでなく、あらゆる活動に影響を与えるのです。


つまり適切な脂質摂取は、細胞膜の形成・維持に不可欠で、細胞活動が健全に維持されることは、全身の健康に直結します。

神経細胞にとって特に脂質が重要な理由

脳細胞

どんな細胞もその活動が維持されることは重要ですが、神経細胞だけは他とは違った特徴があります。
それは『建て直し不可』であること。



「お肌のターンオーバーは約一か月」
というのは、よくお聞きになると思いますが、それは新たな細胞がどんどん作られているという意味です。


同じよう筋肉や粘膜、白血球、赤血球、リンパ球など、多くの細胞は寿命がくると作り変えることができます。
しかし神経細胞だけは、細胞内にある材料で修復していくのが基本です。


そういった事情があるため、例えばケガで受けた筋肉や皮膚の損傷はある程度回復できても、神経の損傷は非常に時間がかかったり、回復するのが難しいことがあるのです。


また毎日のストレスによって、精神的なダメージを受けている時なども、神経細胞は影響を受けています。
こんな時も、細胞を元気に修復するには、質の良い脂質の補給が求められます。


別の表現をするなら、
『神経細胞が維持されていれば、高齢になってもかなり元気で過ごせる』
ということにもつながります。

脂質40%のプレミアムドッグフード?!

ドッグフードとスパニエル

脂質の多い食事は、体力がついて免疫力が上がるのは間違いありませんが、第二次世界大戦後、経済的に裕福な国から新たな問題が続出しました。


それは『過剰な栄養摂取による各疾患』。


その影響は犬猫の世界でも例外ではなく、ここ数十年、やや迷走気味です。


一時期『プレミアムフード』と言えば脂質が多い商品でした。


極めて過酷な環境で、長時間走り続ける犬ソリに参加する犬たちの食餌が、モデルとなり『脂質40%』なんていうのもあったくらいです。


彼らの食餌の中心は、アザラシの肉なので、とても脂質が高いのは確かですが、
①極寒の地で
②一日中走り続ける運動量の多さ
ではそのような食餌でなかったら、体力が持たないでしょう。


しかし例えシベリアン・ハスキーであっても、一般家庭で飼われるようになったら、この食餌がモデルになるわけがありません。



また同じ脂質でも、加工度の高い脂質と新鮮なアザラシの脂質とでは比較になりません。
実際、エスキモーの人達も食事に占める脂質の割合は高いですが、心臓血管系の疾患が少ないのが分かっています。


同じように、地中海地域に住む人々も脂質摂取量が多いことで有名ですが、脂質の中心がオリーブ油であることから、心臓病や脂質代謝異常が少ないことが知られています。

このように最近では、脂質の量ではなく、質の問題も次々と明らかになっています。

脂質は少なくても、多くても免疫力が下がる

高脂肪食

この場合の脂質とは、加工度の高い脂質や酸化した脂質・・・
例えばサラダ油と称される植物油やマーガリン、ショートニング、高温処理された動物性脂肪を含むものなどです。


最近、世界的に鳥インフルエンザが流行していますが、これも高栄養の配合飼料が一般的になってきたことと無関係ではないと考えています。


出荷までの経費を削減するため、できるだけ早く太らせたり、卵を長く産むようにと、玄米のような餌から、栄養価の高い(?!)配合飼料に変化してきました。
しかし鶏の研究では、必要以上に高い脂質摂取によって、呼吸器感染症にかかりやすくなることが分かっています。


また犬に関しては、ジステンバーに罹った場合、病気の進行が早くなります。
ジステンバーに関しては、ワクチンのお陰で発生件数は減っているとはいえ、卵や鶏肉に付着していることが多いサルモネラに対する抵抗力が下がることも分かっています。


要するに高脂肪食もまた、低脂肪食と同じように免疫力の低下が起こる可能性が高いと言えます。

まとめ

オリーブオイル

脂質は量だけでなく、質も同じくらい重要です。
質の悪い脂質が、花粉症などある種のアレルギー反応を強くする可能性も指摘されています。


とは言っても、酸素のある中で暮らしている以上、物の酸化を100%避けることも不可能です。

多少の酸化は、体の方も除去する機能は備わっているので、あまり神経質になりすぎることもないでしょう。

それ以上に、良質の脂質を毎日の食餌に取り入れることが大切です。



長い歴史の中で、私たち人間を含めた生物は、何かが不足することによる不都合を補うバックアップシステムは割と備わっています。

しかし過剰になった経験はなかったので、その対処方法がほとんどありません。


肥満やそれに伴う各疾患は、人間だけでなく、犬猫にとっても大きな問題になっています。
特に脂質は免疫力や脳を始めとした神経細胞に影響を与えるので、ただ量を減らすだけでは問題解決にはなりません。


植物性・動物性、どちらも質の良いものを選び、年齢や好み、毎日の活動量などに合わせて摂ることが大切です。


薬ではないので、単純に
「一日〇mgとれば良い」
というものでもありません。

機械ではないのです。
個体の状況に合わせた量をカスタマイズするのが重要です。

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